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「──────敵」
ああ、予想通りだ。
予想通りなのに、なんて嬉しくないんだろうと思う。
視界が切り替わった。
俺の肩にはセラの手があった。
転移か。
眼前に広がるは緑豊かな平原。
見覚えがある。
ここはアルテアマナ平原だ。
セラは俺から離れると、俺を見ずに言った。
「ユウヤ……あなたはここで殺す」
セラの背中から翼が姿を現した。
片方しかない純白の翼………
天使………いや、片翼の天使と呼ぶにふさわしい姿。
純白の翼出現と同時に、セラの体から魔力が溢れ出た。
魔力の奔流……まるで津波だ。
「俺は……セラ………お前を……」
俺はそれ以上、言葉が出なかった。出せなかった。
セラが構えた。
その瞳には一切のブレがない。
迷いなく、俺を殺せる。
言葉以上に瞳は雄弁にそう語っていた。
俺は左腕の手袋を外した。
剣は抜かない。
俺はセラを殺さない。
タクミの話じゃ、セラは魔法主体で戦う。
それなら、陰の魔力を持つ俺は相性がいい。
それに、幸運な事に今日は曇りだ。
日光は当たらない。
俺の背中からコウモリのような翼が生え出た。
ヴァンパイアの翼。
殺そうとするセラに天使の如き翼……殺すまいとする自分には悪魔の如き翼があるとは、なんと皮肉な事だろうと思った。
そして構える。
互いに対峙の決意は固めた。
想い合う者同士の戦いの幕が、今上がった。
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