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白の世界
そこには、いつかどこかで見た奴がいた。
紅の瞳で、ヴァンパイア化している俺。
金色の瞳で、威圧感を纏っている俺。
そのふたりが、並んでいた。
その内のひとり───金色の瞳の俺が、俺に話しかけてきた。
「記憶の封印解除と共に、お前に残る魔人の力の一切は消え去った。
これで、お前は本来の力を発揮する資格を得た。
リーディングヒストリーは、お前本来のアビリティと魔人の血が混ざって歪な形を成していたに過ぎない。
これからは自らの力を使うがいい」
金色の瞳の俺はそう言うと、フッと掻き消えた。
まるで霧のように。まるで最初からそこに存在していなかったかのように。
次は紅の瞳のヴァンパイアの姿をした俺が、俺に話しかけてきた。
「魔人の血がなくなった事により、ヴァンパイアとしての俺もお前の中に存在することは許されなくなった。
人間の器ではヴァンパイアの力を納めきれないからだ。
特にお前は、その小さい体に大きな物を詰め込み過ぎている………すでに俺の入る場所はない。
だがその事実は決して悪い方向だけには進まない。
この窮地にヴァンパイアの力をすべて解放することができるのだ。
つまり、お前の内にあるヴァンパイアとしてのすべての能力を一瞬ですべてを解放できる、と言う事だ。
この意味は……わかるな?」
俺は、紅の瞳の俺の言わんとする事がわかり、首肯した。
「それならば……これでさらばだ」
紅の瞳の俺は悲しげに笑うと、金色の瞳の俺と同じように消えた。
それと同時に白の世界が崩壊を始める。
その中で、俺は考えた。
彼らは実在したのだろうか。
俺の中に、力の象徴として。
その答えはわからないが、あのふたりとの別れはデメリットだけじゃない。
移り変わる視界を余所に、俺は俺本来のアビリティを理解し、解放されるヴァンパイアの力を感じとった。
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