意志の表出

9/17
前へ
/460ページ
次へ
「でも……それでも私、はリンドヴルムのセラとしてあなたを殺さなきゃいけない!」 セラは己の本心と向き合いながらも、自分を律し、リンドヴルムのセラの役目を全うしようとする。 だから次はセラを縛る、リンドヴルムのセラ、という枷を壊さなきゃいけない。 ……………とは言っても、こればかりは俺はどうしようもない。 自分を縛る枷を壊せるのは自分だけだからだ。 手伝う事はできるが、結局のところ、最後の最後に義務感や責任感、罪悪感という枷を壊せるのは自分だけだ。 セラはもう、自分の本心と向き合っている。 普通ならこれで、枷は壊れるはずなんだが…… アルテアマナ平原で俺においていかれた、という悲しみ…… これまでリンドヴルムのセラとして働いてきた思い出…… それらすべてを総じたものが、本心を上回っている……という事なんだろう。 だが、その差は紙一重のはずだ。 現にセラの瞳に、俺を殺すという強い意志はなく、迷いが見てとれる。 そうだろう、そうだろう………本心とは───欲望とは抗い難いものだ。 自分を大切にする。 自分の意志を大切にする。 言い換えれば、自分の欲望に忠実になる、ということになる。 ただ、自己犠牲の精神で言えば、欲望に忠実になる、の方に分がある。 例えば、今、俺は自分の欲望に忠実になっている。 俺の欲望は、セラが本心のままに動くようになること。 その欲望達成のためならば、俺は犠牲になってもいいと思っている………… この感情に自分でも驚いている。 俺は基本的に、自分を大切にする人間だ。 自己犠牲の精神などごくわずか。 それなのに…今はセラのために命を投げ出す覚悟がある。
/460ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加