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「ねえ、おねーサンたちぃ。寂しいボクらと一緒に飲んでくれませんかぁ?」
梅雨入り直後の、蒸し暑い六月の金曜日の夜。カラオケボックスから出てきた美麗と綾香の背中に、若い男の声が投げかけられた。
二人は小さな婦人服販売会社の同僚で、何人めかの恋人と別れた綾香を励ますための、ヤケ酒ならぬ”ヤケカラオケ”を終えたばかりだ。
「女の子二人でカラオケなんて、つまらないでしょー?ボクらと飲みなおそーよー」
「合コンしよーよ、合コーーーーーーーン」
どこまでも軽い男達の声に、ヘリウムガスでも吸ったのかと美麗はツッコミたくなった。今から展開される辛い状況を思うとゲンナリする。
「合コンだって。どうする美麗?」
自慢の二重まぶたの下で大きな瞳を輝かせる綾香の声は、ウキウキと弾んでいた。ついさっきまで別れの歌を熱唱しながら流していた涙はどこへやら、すでに男達についていく気になっているらしい。
短大を卒業してから就職するまで二年間コンパニオンをしていたというだけあって、綾香は美人で明るく、服装も会話もあか抜けている。
「どうって・・・綾香は行きたいんでしょう?」
「うん・・・今日はぱあっとはしゃいで、何もかも忘れたい気分なんだ」
「いいよ、綾香がそうしたいなら」
ハイハイとうなずいた美麗だが、本当は行きたくなかった。またいつもの引き立て役に回るパターンが待っている。だが、ここで自分が男達の誘いを断ると、そのあとに彼らからどんな言葉を浴びせられるかも、わかっていた。
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