20人が本棚に入れています
本棚に追加
綾香はニッコリ笑いながら、男たちのほうを振り返った。彼女の顔のキメ角度、左斜め四十五度をきっちりキープしている。
「お兄さんたち、どこかいいお店知ってるの?」
声のトーンが普段より一オクターブは上がっていて、完全に”カワイイ”モードに切り変わっていた。彼女の声帯は、知らない男と初めて話すときは、自動的にこんな声を出すようにできているらしい。
綾香に続いて美麗も振り返った。黙ったまま、うつむきがちに。
そこには声よりももっと軽そうな男の顔が、三つ並んでいた。年齢は彼女たちよりも少し上ぐらいだろうか、会社帰りらしく、全員スーツにネクタイ姿。
彼らはまず綾香の顔を見て、よっしゃ、と満足げな笑みをうかべた。三人のうち一人は「おおー」と、おおげさな声まで出して喜んでみせた。
続いて美麗の顔を見た男達は微妙に表情を変えた。口には出さないが、明らかな失望の気持ちが見て取れる。
――気にしないわ、いつものことだもの。
美麗は自分に言い聞かせた。
顔の造りは決していいとは言えない美麗だが、スタイルの方はメリハリがきいてスラリと伸びた綺麗な脚をしている。そのため、後ろから男に声をかけられて振り向くとガッカリされる、ということは普段からよくあった。
「やったー」
「いい店、知ってるよー」
「ささ、行こう行こう」
三人は綾香と美麗に――正確には綾香ひとりに――楽しげな言葉を投げかけ、夜の繁華街を先に立って歩き出した。花のような笑みを満面に浮かべた綾香と、うつむいたままの美麗が並んで後に続く。
間もなく、こじゃれたチェーン店の居酒屋で、女二人と男三人が向かい合って座った。最初のオーダーが済むと、三人の中のリーダー格らしき長身のイケメンが仕切り始めた。
最初のコメントを投稿しよう!