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おそらく彼はみんなが気づかないうちに、綾香に自分のメアドか電話番号を渡しているのだろうと、美麗には察しがついた。
長身イケメンと色白ぽっちゃりが綾香を挟んで歩き出した。とっくに勝負はついているのに、と色白ぽっちゃりに同情する美麗に、黒ぶちメガネが小声で話しかけてきた。
「ねえ、美麗ちゃん。俺、どうしても美麗ちゃんのメアドを知りたいんだ。だめかな?」
「本当?」
彼女は自分の耳を疑った。仕事以外で男の人にメアドを聞かれたことは、今まで一度もなかったからだ。
「本当だよ。電話番号でもいいよ。今晩連絡するから」
予想外の展開に、ついさっきまで疎外感でいっぱいだった彼女の心は、まるで霧が晴れるように明るくなった。
――彼があたしの名前をほめてくれたり、話しかけてくれたりしたのは、イヤミや同情ではなく、本当にあたしに好意をもってくれたからなんだ。
「うん、いいよ」
彼女は喜んでメアドを交換した。
駅の改札口で、美麗と綾香は手を振って男達と別れた。綾香は長身イケメンに、美麗は黒ぶちメガネにむかってそれぞれ手を振る。
ひとりカヤの外に置かれた色白ぽっちゃりを見て、美麗はちょっといい気味だと思った。
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