第1章

5/5
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
呆けたように座っているゆきに近づいて、頤を持ち上げる。 俺の目の奥を探るように見つめてくるのを知らんぷりして、噛み付くようにキスをした。 びくりとすくませる身体を抑え込み、唇を割って舌を滑り込ませる。 「ん…ぅ…」 必死に俺のシャツを握りしめる手。 すがりつくように。 すがりつけ、もっと。 「…んちゃ…ん」 息をつく合間に、ゆきが俺を呼ぶ。 「何だ?」 「…一つだけ、お願いしていい?」 「言うだけならタダだ、言ってみろよ」 「他の人と、呼び間違えないで欲しい」 「…わかった」 全身で俺を求めておきながら、口にする願いは一つだけだという。 呼び間違えるな、と。 仕方ない、だったらかなえてやろうじゃないか。 昨夜の名残もそのままのベッドにゆきを連れ込み、散々泣かせたそのあと。 俺は予想以上に真剣に釣り書きに目を通した。 『ゆき』の愛称を持つ女を嫁にするために。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!