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呆けたように座っているゆきに近づいて、頤を持ち上げる。
俺の目の奥を探るように見つめてくるのを知らんぷりして、噛み付くようにキスをした。
びくりとすくませる身体を抑え込み、唇を割って舌を滑り込ませる。
「ん…ぅ…」
必死に俺のシャツを握りしめる手。
すがりつくように。
すがりつけ、もっと。
「…んちゃ…ん」
息をつく合間に、ゆきが俺を呼ぶ。
「何だ?」
「…一つだけ、お願いしていい?」
「言うだけならタダだ、言ってみろよ」
「他の人と、呼び間違えないで欲しい」
「…わかった」
全身で俺を求めておきながら、口にする願いは一つだけだという。
呼び間違えるな、と。
仕方ない、だったらかなえてやろうじゃないか。
昨夜の名残もそのままのベッドにゆきを連れ込み、散々泣かせたそのあと。
俺は予想以上に真剣に釣り書きに目を通した。
『ゆき』の愛称を持つ女を嫁にするために。
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