第1章

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ばさりと紙袋をひっくり返して、リビングに見合い写真と釣り書きをまき散らした。 この中から一枚を選ぶ。 それだけのことだ。 「…のんちゃん、僕を捨てる気?」 まき散らされたものの正体に気が付いたのだろう。 眉をひそめてゆきが問うた。 「捨てられたいか?」 「捨てるならちゃんと壊してからにしてくれよ」 「壊してから捨てたら、佳也子どころか、俺はなりにも刺されるな」 親の名前を出してくつくつと笑ったら、ため息をついたゆきがめんどくさそうにテーブルに着いた。 仕方なさそうに口に食べ物を運ぶ。 ほら。 何処にもなじめずに、こうして俺だけにすがる生き物をどうして捨てられる? 俺がここにいることを証明してくれるってのに。 「ゆき、捨てられたいか?」 改めて問うたら、うつむいてふるふると首を横に振った。 「でも、のんちゃんは…どこへでも行けるから」 捨てられることがあっても仕方ない…口の中でそうつぶやく。 どうだ、この愛しさは。 まだ青くて育ちきっていないこれを全力で構い倒したら、どんなことになるかなんて、貧困な俺の想像力でも思いつく。 だったら他の奴で紛らわせた方がましだ。 そう思って自分の気をそらしていたら、出来上がったのがますます俺好みの性格。 俺だけを見ていればいい。 他があるなんて想像もしなくていい。 「ゆき、俺が所帯を持って子供を作らなきゃなんないのは、知ってるよな」 「うん」 「お前、世間一般的に言うところの俺の愛人になるか?」 「いいよ」 「いいこだ」 即答だぜ。 実の親より年上の男に囲われるのに、考えもしないってサイコーじゃねえか。 腹の底から笑いが込み上げる。 「一緒には住めないぞ」 「…うん」 「だから一人で生活しろ」 「え?」 「なりには許可をもらった。この部屋をやるから、一人で暮らせ。お前は俺のもんだ」
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