Allemande

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九月に入っても東京は夏の終わりの兆しを見せない。 あるとすれば、風が少し冷たくなっただけで、日差しは相変わらずの暑さと痛さのため日傘を差す人々が沢山いる。日傘に関しては年中差している人もいるが。 暑いのは日差しだけではない。九月の上旬にはどの学校でも文化祭が開催される。面白いのが学生おろか教師までもがこのイベントに熱を入れている所だ。 そして天王寺彩は、高校時代の後輩に呼ばれて有栖川音楽大学の文化祭に来ていた。正しくは大学祭だが。 天王寺は受付に向かい、署名簿に名前を書いた。 「あ、天王寺様ですね。金木さんから話を伺っています。どうぞこちらへ」 受付の生徒が言っていた金木という人物は天王寺の後輩の金木 円華(カネキマドカ)の事である。 どうやら大学では才女として有名らしく、学校側からの扱いが違かった。先ずこの待遇だ。天王寺が案内されたのは校内にある応接間であった。 「只今金木さんを及び致しますので、此方でお待ち下さい」 天王寺がソファーに座ると、お茶と茶菓子が出された。天王寺は苦笑しながら湯呑みを口元に運んだ。 その間、何故かお茶を運んだ女子生徒が凝視してきた。どうやらお茶を淹れたのはこの女子生徒らしい。天王寺はお茶を口に含めて味わった。 「あ…美味しい」 直接見ていないが、女子生徒が微かに動いたのを視界で確認した天王寺は、茶菓子を食して再度お茶を飲んだ。 「あ、凄いな…。ねぇ、君」 「はいぃっ!!」と上擦った返事をした女子生徒を見て天王寺は苦笑した。余程緊張していたようで、天王寺と目が合うなり一気に赤面した。 「そんなに畏まらないでいいよ。このお茶が何処で手に入れたのか知りたいんだ。淹れた人が上手いのか、茶の甘みと茶菓子が良く合って驚いた」 すると女子生徒は赤面のままパクパクと口を開閉するだけで声が出ず、挙げ句の果てに慌て出した。困った天王寺は他に誰か居るか辺りを見回すと応接間の扉が開いた。 「お待たせしました先輩…ーーて、どうしたんですか?この子」 艶やかな漆黒の長髪を持つ美女が髪を揺らしながら入室するなり、赤面のままあたふたする女子生徒を見て天王寺を見た。 「ーーーーあ、出されたお茶の入手方法を知りたくて聞いたんだけど、金木さんは知ってるかい?」 天王寺は久々に会う後輩を凝視するあまり返事が遅れた。
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