Allemande

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金木は「いいえ」と短く返事をし、あたふたする女子生徒を宥めた。 流石才女効果。女子生徒は直ぐに落ち着き、自分の立ち位置に戻った。 金木は天王寺に向き直り、肩掛けの鞄から薄手の冊子を渡した。 「改めて、有栖川音楽大学の学祭へようこそお越し下さいました。私金木円華が学内をご案内致します」 「よろしくお願いします」 金木はお辞儀をして応接間の扉を開いた。 「音楽大学なのに、他の大学のような学祭をするんだね」 「違います先輩。これはほんの前奏にすぎません」 広い学内を歩く二人は、先程見た各クラスの出し物について語りながら歩いていた。 「前奏という事は、これからが本番ということだね?」 「はい。それに私も出演しますので、午後一時に大劇場へお越し下さい」 天王寺は腕時計を見た。時間は丁度十二時を表記していた。 「もしかして、君はこの後準備があるという訳だね?」 「申し訳ございません。昼食は部屋に用意してあります」 「分かった。ちょっと見たい所もあったから、一時まで時間を潰しとくよ」 二人は応接間に向かい、金木は扉の前でお辞儀をして去った。天王寺は扉を開いて応接間のテーブルに置かれた豪華料理を見て苦笑した。 「まったく、音楽大学のする事じゃないよね」 それから一時間が過ぎ、天王寺は金木に言われた通り大劇場へ向かった。劇場の扉の横には~ミュージカル シェエラザード~と書かれた案内板があった。天王寺はその文字を見て心躍った。あの千夜一夜の音楽劇がここで見られるとは思わなかったのだ。 劇場へ入場すると、天王寺に気付いた生徒が天王寺の肩を叩いた。 「天王寺様のお席はこちらに用意しております」 生徒が指した方へ向くと二階席が見えた。 「何て気の利く子なのでしょう」 二階席の前方は特等席だった。
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