Allemande

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天王寺は案内されるがまま着いて行き、最前席に腰掛けた。 少しすると上演時間になり、辺りは暗くなった。他に誰も来ない事から、天王寺一人が二階席を占領していることになる。 上演を知らせるブザー音が鳴った。いよいよ開幕だ。 才女は第一楽章から出演しており、出番の少ないハープを弾いていた。出番が少ないと言ってもハープ演奏は難しいとされ、且つシェエラザードのハープはオープニングの要となるためなくてはならない存在だった。他にもハープ奏者はいるらしいが、やはり才女を前に誰も手足は出せないようだ。他の楽器奏者は安心しただろう。 彼此一時間が過ぎ、クライマックス、そしてヴァイオリン独奏で幕を閉じた。会場内は大喝采が巻き起こり、殆どがスタンディングオーベーションした。 それは天王寺もそうで、才女を見ながら拍手を送った。 「お疲れ」 天王寺は大劇場の入り口に立ち、奏者の集団を抜け出した才女ーー金木が駆け付けた。 「ありがとうございます、如何でしたか?」 「僕、君しか見てなかった」 「ちゃんとシェエラザードを楽しんで下さいよ」 金木そう言って苦笑した。 その後、天王寺と金木は校内を周り、昨年とは一味違う学祭を楽しんだ天王寺は腕時計を見た。 「先輩、お帰りの時間でしょうか?」 「うん。でも最後に行きたいところがあるんだよね」 「どこでしょうか?」 「うーん…三階のあの窓際かな?さっきからチェロの音色が気になって」 金木は片眉を上げて天王寺の言った窓を見た。 「先輩って、耳良いですよね。私は意識したから聞こえましたが、こんな微かな音、普通聞こえませんよ」 「昔から地獄耳だと言われてたんでね」 「いや、先輩時々聞こえてないので地獄耳じゃないですよ。取り敢えずあの教室、第一音楽室までご案内致します」 二人は再び校内に戻り、三階に上がって行った。そして、端にある教室ーー第一音楽室の前に立った。 『お呼び出しを申し上げます。音楽科器楽専攻三年、金木円華さん、金木円華さん。至急職員室へお越し下さいーー』 金木はまさか自分が呼び出されるとは思わなかったようで、「え…」と戸惑った様子で校内アナウンスを聞いた。 「金木さん、行ったほうがいいよ」 「すみません先輩。すぐに戻りますので自由に第一音楽室を見学していて下さい」 「うん。そうする」
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