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「最近成績の伸びが良いな。このままだったら文句無しで有栖川音楽大学に入れるぞ」
「ありがとうございます」
キーンコーンカーンコーン…ーー
校内に下校のチャイムが鳴り響いた。
東京都品川区にある高偏差値の私立高校、緑柱高校の職員室。東洋人とは掛け離れた西洋人容姿と長身長を持つ風間 響夜(カザマ キョウヤ)は、先日受けた大学受験対策テストで志望大学の合格水準を優に超した成績を残した事で、担任に呼び出されていた。
「最初は合格基準ギリギリだったが、何の対策でここまで伸びたんだ?本当にすごいぞ」
「そうですね。集中出来る空間を手に入れた、ということですかね」
「成る程な。新しい住まいがそうであって俺は嬉しいよ」
(本当、俺もそう思う)
風間は内心そう呟いた。
一ヶ月前は、まさかこうなるとは思いもしなかっただろう。そう、事が起きたのは一ヶ月前、有栖川音楽大学の大学祭での出来事だった。
志望大学の大学祭という事で有栖川音楽大学へ行った風間は、各音楽クラスの見学と、この大学の名物であるミュージカルを観て楽しんでいた。
帰り際、夏休みのオープンキャンパスに参加した際にお世話になった先生に出会い、受験対策や入学後の部活などの紹介や、教室見学を兼ねて第一音楽室へ向かった。
この先生は風間の両親を知っており、自慢げに風間の父親のCDを何枚か持っている等、様々な話で盛り上がった。
「そうだ、実技は持ちろんチェロだよね?自分の持っているのかい?」
「はい。父のお下がりですが」
「それは年期の入った代物だろうね。相当良い音出るんじゃないか?」
「ええ。しかし未だに手に馴染まないですね」
「じゃあこれを試してみないかい?最近入ったチェロだが使い手と相性が悪いようなんだ」
そう言って準備室からチェロを持ち出し、風間に渡した。風間はケースを開け、チェロの具合を見た。
「奇麗な艶ですね。最近のチェロですか?」
「そうなんだ。2012年の物なんだよ」
風間は近くにある椅子に座り、チェロの試し弾きをした。
「弾きやすい…」
風間は夢中になり、よく弾く楽曲を弾いた。
いつの間にか先生がいなくなった事に気付かないくらい夢中になった。だから誰かが入って来て、
「君、音を間違えているよ」
そう言われるまで気付かなかった。
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