Courante

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「あら、いいじゃない」 「Huh ! ?」 夕食の席でチェロ奏者の仕事を受託した事を伝えると、風間の母は即答で許可をした。 「何を驚いてるのよ」 「いや、おかしいでしょ?一人息子が見ず知らずの人の家に住むんだよ!?」 「別に驚かないわよ。貴方のお父さんだって、私の家へ住み込みで働くようになったから、そこで出会って結婚したのよ。やっぱり血は争えないわね。彼も私の父に腕を買われて来たのよ?そうよね?」 「Ja.――響夜、むしろ喜ばなければならないよ。君の才能を開花するチャンスなんだからね」 「Oh...Jesus!」 (そう。こんなサバサバし過ぎる両親だとは思わなかった) 風間は映画のチケットを購入してエレベーターに乗った。その際、風間の父が言った言葉を思い出した。 『可愛い子には旅をさせよって言うでしょう?』 (親父があんな事言うとは思わなかった…あの人本当にスイス人か?) エレベーターのドアが開くと、従業員が「いらっしゃいませ。チケットを拝見します」と言って丁寧にお辞儀をした。風間がチケットを渡すと、従業員が「この先階段を上がった所になります」と誘導した。 (そもそも俺は可愛いって年じゃないだろ) 風間が階段を上がっていると、館内を掃除していた従業員と目が合った。 「あれ?風間君?」 そこには昨年同じクラスだった小柄な女子生徒である佐々木菜穂がいた。 佐々木は人形フェイスで、男子の中で話題になっている。友人の中には彼女が働いている映画館によく遊びに行く者もいた。そうか、この映画館だったのか。 「佐々木さん、此処で働いてたんだ」 「うん。にしても偶然だね!席まで案内するね」 風間は苦笑を浮かべながら「ありがとう」と答えた。 彼女に案内された席は、割と後ろの列で中心の席だった。話題の映画だったから席が埋まっているだろうと思い、チケット売り場の従業員に「適当な席で」と言ったが思いの外いい席だった。 席に着くと直ぐに上映が始まった。風間は肘掛けに肘を置いて頬杖をついた。
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