Courante

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上映後、エンドロールを見ずに風間は席を立って会場を出た。この映画は各番組で話題になっていた割にはそんなに面白くなく、少し残念な思いに浸っていた。 階段を降りると、下で佐々木がゴミを回収して片付けていた。 「ありがとうございました 」 佐々木はそう言って笑顔を浮かべた。 風間は頷いてエレベーターに乗った。映画館を出ると、すっかり辺りは暗くなっていた。時計を見ると十九時過ぎだった。 駅に向かって歩き、改札を通った。電車が来るまで後数分。流石帰宅ラッシュだ。電車が来るのが早い。 電車が来ると下車する人が多く、また乗車する人も多かった。数駅で東京に着き、改札を目指して歩こうとした時風間は気付いた。 「何処の改札口に行けばいいんだ?」 直様スマートフォンを取り出して天王寺に電話を掛けた。四コール目で天王寺は電話に出た。 『やぁ』 「今下車したんですが、何処の改札に出ればいいですか?」 『丸の内中央口の改札で』 風間は案内を見て丸の内中央口の改札の方面を探した。 「わかりました。直ぐ行きます」 『ああ。待ってるよ』 風間は電話を切って、急ぎ足で改札へ向かった。やっとの思いで改札を見つけて出たが、天王寺の姿が見当たらなかった。 辺りを見回していると一人だけ異様な格好をした人を見かけた。いまだ暑さが残っている九月なのにも関わらず、全身黒の服装にハンチングを被り、夜なのにグラサンを掛けていた。 グラサンの人は何故か手を振った。風間は周りを見回したが誰も手を振り返す人がいなかった。するとその人が近付いてきてグラサンを外した。 「やぁ」 「天王寺さん!?っていうか、何故グラサンと帽子を?」 「いや…知り合いに会いたくなくて。ま、君が僕に気付かなかったということは、 ちゃんとカモフラージュできているという事だね」 (いや、ある意味存在感ハンパなかったんだけど…) 風間は内心を敢えて口には出さなかった。
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