Courante

7/25
前へ
/38ページ
次へ
「じゃ、行こうか。ここの近くで美味いビュッフェがあるんだ」 「ビュッフェ!?」 天王寺が勧めるビュッフェは思いの外ラフな感じに思えた。中は賑わっていて、まるで立食パーティーの様だった。 「どう?楽しんでる?」 「あ、はい」 天王寺の手にワイングラスが握られていた。この人バイクじゃなかったか? 「あの、天王寺さん。お酒飲んでます?」 「いや、僕はお酒が飲めないんだ。これはシャルドネを使ったジュースさ。君も飲むかい?」 「あ、いやいいです」 「じゃあ向こうのテラスに行かないかい?今日観た映画の話を聞きたい」 この人本当に酔ってないか?天王寺の象牙色の肌が微かに紅潮しているように見えた。それにテンションも高い。 テラスに行くと夜風が涼しかった。天王寺は風を感じるように目を瞑った。 こんなに無防備で、テンションの高い天王寺を初めて見た風間は、天王寺の家へ引っ越した日を思い出した。 それは、部屋を案内してくれた時だった。 「君はここで何をしても構わない」 「はい」 地元で図書館と呼ばれている天王寺の豪邸は、各部屋に本がギッシリと敷き詰められており、本当に図書館のようだった。 しかし、通路の角に続く薄暗い扉を前にした時、今までとは違う雰囲気の天王寺を見た風間は、この部屋がただの部屋ではない事を感じた。 天王寺は声のトーンを下げて言った。 「そう。ここで何をしても構わない。しかし、この部屋に入る事は禁じる」 脅しの様な睨み。それが天王寺彩。 そんな一面を持つ天王寺が、アルコールのないシャルドネを飲んで緩んでるのを見て、風間は可笑しく思った。 (これもこの人の一面か) 何時の間にか持たされたワイングラスから、仄かにアルコールの香りを感じた。 「ちょっと、天王寺さん。これお酒ですよ」 「うそだぁ~」 天王寺は風間からワイングラスを奪い、シャルドネの匂いを嗅いだ。 「これジュースだよぉ~」 (うわぁ…もしかして面倒臭いやつだ) 瞬く間にワインを飲み干した天王寺はワイングラスを風間に渡し、テーブルへ戻った。 てっきり千鳥足だと期待した風間だが、足取りはしっかりしていた。流石というところか。 途中、平素を装いながら落ちたハンカチを女性に渡した姿を見て苦笑しか浮かばなかった。 「一括で」 流石にブラックカードで支払いをしたのを見た時は、かっこいいと思った。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加