Courante

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「天王寺さん、何でここに来たんですか?」 「電車だが」 「え、天王寺さんって電車使うんですか?」 「君は僕の事を何だと思ってるんだよ」 何時の間にか酔いが醒めたのだろうか、口調もいつも通りに戻っていた。 風間は腕時計を見ると、時刻は二十一時を過ぎていた。 「天王寺さん、この時間も帰宅ラッシュで混んでますが、電車で帰りますか」 「ああ」 二人は東京駅の改札を通った。風間は天王寺がICカードを使って改札を通ったのを見て、地味に感動した。 山手線は内回りが近い。しかし、乗車駅は東京駅。やはり人が多かった。 天王寺はドアの前に立ち、その後ろを風間が立った。 最初は風景を見ていた天王寺だが、飽きたのか、それとも疲れたのか、風間の方へ振り向いてドアを背もたれにした。 当たり前だが向き合う形となり、風間は若干気まずさを感じた。一方天王寺は気にもせず、腕組みをして風間を見つめた。 「そういえば映画の話を聞いていなかったな。何の映画を見たんだ?」 「あー…実写映画ですよ」 「バスケ漫画の?」 「天王寺さん知ってるんですね」 天王寺は「馬鹿にしてるのか?」と言って笑った。 目白駅に着くまで他愛のない話をしていたが、途中電車が揺れ、背後の人に押された風間はドアに手をついた。 その時お互いの目が絡み、風間は何故か目の前のオニキスの双眸から目が離せなかった。 「君の双眸はまるで秋の空のようだな。薄い水色が綺麗だ」 ハッと我に返った風間は目を逸らして、こめかみを掻いた。 「天王寺さん、まだ酔ってるんですか?」 「とっくに醒めている。それよりもう少し見せなよ、君の目を」 その言葉に風間の心臓が高鳴り、段々と早鐘し出した。 「天王寺さんって、サラッととんでもない事を言いますよね。しかも、俺達今密着してんですよ?恥じらいの気持ちはないんですか?」 「何、君は恥らってるの?中々可愛い事を言うんだね」 風間は段々と赤面するのが分かった。それを見た天王寺はクスクスと笑い、「冗談だよ」と言って目を閉じた。 「着いたら起こして」 「…わかりました」 風間は目の前で眠る天王寺をまじまじと見つめた。象牙色の肌、閉じても分かる少し吊り上がった目尻、通った鼻筋、桜色の唇。 (そういえば、この人の性別がわからない…) 顔は女顔だけど、女にしては背が高く胸がない。しかし、男にしては細身で体の線が柔らかい。それに声が高く、髭がない。
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