Courante

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『次は~目白~目白~』 下車駅のアナウンスがされ、風間は天王寺を起こした。 「もう目白か」 「天王寺さん立ちながら寝れるなんて器用ですね」 「習慣だったからね」 目白駅に着き、天王寺はそそくさと改札を出て、タクシー乗り場に並んだ。風間は慌てて追いかけた。 「歩いて十五分じゃないですか。歩きましょうよ」 「眠い」 そう言ってタクシーに乗り込んだ。風間は溜息を吐いて一緒に乗り込んだ。天王寺は「森まで」と言うと運転手は直ぐに理解したらしい、「かしこまりました」と言って車を発車させた。 風間はふと右肩に重心を感じた。目だけを動かすと、天王寺が肩にもたれ掛かっていた。まだ酒が抜けないのだろうと風間は考え、そっとしておいた。 天王寺邸の門前に着くと、天王寺はカードを出して支払っていた。今時タクシーもカードで支払えるんだなと風間はそう思いながら、手渡された鞄を持って先に出た。 天王寺がタクシーから降りようとした時、風間は手を差し出した。 「大丈夫ですか?眠いんでしょ?」 「うーん…それなかなかときめくねぇ。ちょっとそのままで」 そう言って天王寺はスマートフォンを取り出して、カシャッ!と写真を撮った。 撮られたことに驚いた風間は、眉間に皺を寄せて「消して下さいよ」と言ってそっぽを向いた。 「資料だよ、資料。ほら、手を引っ張ってくれるんだろ?」 「はぁ…」 風間は盛大に溜息を吐き、天王寺の手を引いてタクシーから降りさせた。タクシーはそそくさと走り去り、風間は天王寺を引っ張りながら家へ向かった。 扉の前に着くと、ブレザーの内ポケットからカードキーを出して、壁にある解除装置にかざした。鍵は解除され扉を開けたが、背後にいる天王寺が先に行かないのに気付いて振り返った。 (おいおい…寝ないでくれよ) よほど眠いのか、天王寺は壁に寄りかかって眠っていた。 風間は腕時計を見て時間を確認した。時刻は二十二時を指していた。 (そうだ、この人二十二時に就寝する人だった!) 天王寺は、仕事上健康維持の為に早寝早起きをし、適度な運動と食生活に気を付けている人間であると思い出した。 風間は既に夢の住人になりかけている天王寺を背負い、天王寺邸へ入った。 天王寺邸は執事や召使いはいない。誰かと住むのが苦手な性分であると豪語していたのを思い出し、じゃあ俺はどうなんだと考えながら寝室へ向かった。
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