Courante

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寝室のドアを開くと、図書館と言われているにも関わらず、本も何も置いていない。あるのは天蓋付きのベッドだけが部屋の中心に置かれていた。 風間はベッドの掛け布団を捲り、天王寺を降ろして掛け布団を掛けた。顔を見ると瞳が固く閉じられていて熟睡しているのが分かった。 (女みたいだけど、こんな神経が図太い人が女なわけないな) そう心の中で呟いて部屋を出た。 自室に戻って室内着に着替えた後、鞄の中から授業で出された課題の冊子を取り出して机に置くと、白い封筒が置かれているのに気付いた。 「あれ?」 差出人を見ると両親の名が書かれていた。慌てて封を開けて手紙を見ると、一言「粗相のないように。そして練習を怠らないように」と書かれていた。 「え、これだけ?」 他にも何か入ってないかと封筒の中を探ったが何も入っていなかった。 これぐらいの文章ならばメールでいいのでは?と考えながら手紙を机の中にしまおうとしたが、引き出しに楽譜があるのに気付いて取り出した。 楽譜には「亡き王女のためのパヴァーヌ」と書いてあった。 (今度天王寺さんの前で弾こうと思ってたやつだ…こんな所にあったのか) 風間は明日学校で練習しようと思い、鞄に楽譜を入れた。 「風間君!」 登校時、校門前で誰かに呼び止められたので振り向くと、昨日映画館で会った佐々木が手を振りながら駆け足で来た。 「風間君、おはよう!」 「おはよう」 「昨日ぶりだね」 「ああ」 風間は昨日会った時とは違う、少し高めのポニーテールに目が行った。 二人が各々のクラスへ別れた。風間が教室へ入るとクラスメイトの男子に集られ、佐々木とはどういう関係なんだと問い詰められた。 「昨年の同クラス」 それしか言えなかった。 今迄意識しなかったが、佐々木と選択科目が一緒で、よく顔を合わせていた事に気付いた。午後の選択科目で、不人気の物理クラスでさえ佐々木と一緒だった。 風間は、最前列に座るポニーテールを幾度も見ながら、教科書に視線を戻した。
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