Courante

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校門を出ると、佐々木はニコニコしながら言った。 「風間君、浜松町だったっけ?」 「いや、今は目白」 「え、遠くなったね」 「まぁ、でも、大学には近い」 「目白というと有音か!風間君音大目指すのかー!」 佐々木は人形のように大きな目を更に大きく開いて「風間君すごーい!」と感心した。 その後は他愛のない話をした。駅まで二十分もある距離だが、あっという間に着いてしまった。 佐々木は「私は有楽町だから反対だね」と言って反対側のホームに並んだ。風間は、自分が乗る電車を見送り、佐々木が電車に乗るまで待った。 佐々木と別れた後、直ぐに反対車両の電車が来て乗車した。席には座らず、目白までぼーっと外を眺めた。 この日以降、風間は佐々木と帰るようになった。 十月の下旬になり、風間が通う緑柱高校の文化祭が近付いて来た。朝食時、その事を天王寺に伝えると… 「え!是非とも行きたい!そして素材を撮らせてほしい!勿論君は執事だろ?」 「残念ですが、俺のクラスはたこ焼き屋をやります」 「風間君、そこは空気読もうよ」 と、あからさまに残念がった。しかし、文化祭には行くと言って天王寺が手帳に書いたのを見て風間は喜んだ。 (危うく執事喫茶になりかけたけどな) そう心で呟きながら文化祭の準備を着々と進めた。屋台作りをしていると、廊下から教室を覗く女子生徒達が見えた。そこには佐々木もいた。 「風間君、はかどってる?」 「ああ。佐々木んとこは?」 「ぼちぼちよ」 佐々木が肩を竦めると、別の場所で作業していた友人が近付いて来た。 「菜穂ちゃんのクラスは何やるの?」 「執事&メイド喫茶だよ」 「え、菜穂ちゃんメイド服着るの!?」 友人は興奮気味にそう言って窓から廊下へ身を乗り出した。 そう。佐々木のクラスへ執事喫茶の運営権が渡ったのだ。 この事を天王寺に伝えよう。そう考えながら作業を続けた。
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