9人が本棚に入れています
本棚に追加
(何て馬鹿げてるんだ…)
風間は今考えていたことを頭から引き離そうと頭を左右に振った。しかし風間も健全な男子高校生。いくら音楽道まっしぐらな生活を送っているとはいえども青春の真っ只中。考える事は男子高校生と一緒で、一度考えてしまったこの手のものは中々頭から離れない。
目を開いて天王寺を見れば、同性なのか異性なのか分からなくても感じてしまう情というものがあるし、これも性である。だから目で捉えてしまった桜色の唇に触れたいと思ってしまうことは間違いではない。それは今日だけではない。前からであった。
いけないとは頭では分かっていても、体は思考と相反している。
触れたい。
きっとその唇は柔らかいのだろう。
好奇心を満たしたい。
例え、それが雇い主を裏切るような行為であっても。
葛藤の中、体が天王寺に近付く。両手が天王寺の顔の横につき、顔を近付ける。
象牙の肌の中で際立って目立つその禁断の果実に触れたら、きっと心を満たすことができるだろう。
顔が近付く度に段々と早鐘する鼓動。もしかしたら音が大きすぎて聞こえてしまっているのかもしれない。
嗚呼、顔がくっ付いてしまう。そう思った時には既に唇が重なってしまった時だった。それは想像した通りの柔らかさで、直ぐに離れる事が出来なかった。貪って口内を舌で犯したい。
唇が離れた時に我に返った。
「――…っ!!」
風間は逃げるようにして天王寺の寝室を出て自室まで走って戻った。途中にある仕事部屋なんて気にしない。自室のドアを背にして地面へ座り込んだ。
(ヤバい、俺何やってんだよ、ほんと)
両手で顔を覆うが、先程の出来事が頭から離れない。心音が大きいままだ。
宿題どころじゃなかった。
次の日、授業中でボーっとすることが多かった風間を気にしてクラスメイトが話し掛けてきた。風間は生返事しかできず、放課後の文化祭準備でもこの調子であった。
「風間君、大丈夫?」
気付いたら佐々木が目の前で屈み込んで顔を覗き込んできた。
「ああ、佐々木か」
「何か珍しくボーっとしてるね。体調悪いの?」
「いや、別にそうじゃないけど」
目を逸らして作業を続けていると、佐々木が手を掴んで作業を止めた。
「何?」
「ねぇ、みんな帰っちゃったよ?」
「……は?」
風間は顔を上げて周りを見渡した。佐々木が言った通り、教室にいたはずの生徒が帰っていた。
最初のコメントを投稿しよう!