Courante

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風間は溜息を吐いて道具を片付け、同じように佐々木は無言で片付けを手伝った。 片付けの最中、ポケットに入れていたスマートフォンが振動したのに気付いた風間は、ポケットから取り出して画面を確認した。電話ではなかったから一先ず安心したが、メールを確認すると差出人が天王寺と記されているのに気付いてドキッとした。 もしかして…――と思ってしまうのだ。しかしメールの内容は、今日の夜に演奏をお願いしたい。という依頼の内容だった。 風間は悩んだ。昨日の出来事で天王寺に後ろめたさを感じてしまっていた。果たして天王寺の前で演奏ができるのだろうか? どう返信しようかと悩んでいると、佐々木がブレザーの裾を引っ張った。振り返ると佐々木の大きな目と合った。 「風間君…あのね…ーー」 十八時。日本橋にあるデザインオフィスでの会議の後、天王寺はどうしてもカフェラテが飲みたくて地元で行き着けのカフェへ入った。何時ものメニューを頼み、何時もの席で本日二回目のカフェラテを飲んでいると、駅から歩いて来るアッシュブラウンの髪色の高校生を見付けた。 風間だとわかったからと言って、わざわざ外に出て声を掛けるつもりはないらしく、そのまま目の前を通り過ぎる風間を見ていた。しかし、風間はカフェ前に停められているアメリカバイクを見て立ち止まり、振り返ってカフェの窓際席を見た。 「あ、見つかった」 風間に見つかった天王寺はそう呟いて手を振った。風間は軽く会釈をして、カフェへ入店した。 「天王寺さんこんばんは。今仕事が終わったんですか?」 「こんばんは。会議が長引いちゃってさ。息抜きにカフェラテ飲んでたところ。何か飲むかい?」 「え、じゃあ同じやつを」 「OK」 天王寺が席を立ってレジカウンターへ向かった。 風間は先程まで昨日の出来事に関して思い煩っていたにも関わらず、いざ天王寺を前にしても一切の後ろめたさや罪悪感というのがないのに気付いた。寧ろ夜に演奏する楽曲を何にしようか考える程気持ちに余裕が出来ていた。 (利用してしまった感が強いけど) 風間は放課後の教室での事を思い起こそうとした時、トレイを持った天王寺が戻って来た。 「はい、カフェラテ。トールサイズでいいんだよね?」 「あ、はい。ご馳走様です」 「うむ。ーーつか君、何か良い事でもあったの?」 風間は飲んでいたカフェラテを吹きこぼした。
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