Courante

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「あ、すみません」 「いや、気にしなくていい。で、どうだい?」 「大丈夫ですが、いいんですか?」 「何が?」 「また演奏しても」 天王寺が大笑いした。 「何を言い出すかと思えば。君は僕専用の演奏者である事を忘れてしまったのかい?」 「いや、そういう訳では…」 「なら、大丈夫だね。明日もお願いするよ」 そして再度風間の頭を撫で、居間を出て行った。 例え明日に演奏の約束を取り付けたとしても、正直不安が拭えなかった。 それが最後の演奏になるかもしれないからだ。 「風間君、おはよう」 「ああ、おはよう」 品川駅で佐々木と待ち合わせをし、学校へ向かおうとした。隣で歩く佐々木を見るとバッチリと目が合った。 「風間君、元気ない?」 「そんな事はない」 そう言って風間は佐々木の頭を撫でた。佐々木は赤面になったが、それよりも風間に頭を撫でられた事が嬉しいのか、ニコニコと笑顔を浮かべた。 (女って妙に鋭いな) 放課後。明日が文化祭の為か、クラスが盛り上がっている。屋台も完成し、机を動かしてテーブルクロスを敷いた。「ただいまー」と買い出しのグループが戻り、担任から召集が掛かる。 「明日はいよいよ文化祭だが、一般公開は明後日だ。粗相の無いようになー。それと食中毒に気を付けなきゃいけねー。だから、入り口の担当はアルコール消毒を頼むぞ」 「「りょー」」 風間も担任の注意に耳を傾けてメモ帳に書き記した。風間は所謂イケメンの部類に入る為、接客や呼び込みの担当となっていた。 その後各グループに分かれ、風間は明後日の呼び込みに使用する手持ちの看板作りに勤しんだ。今日の演奏の事で頭が一杯になりそうだったからだ。 やがて夕方になり、後一息で全体の作業が終わろうとした時、佐々木とそのクラスメイトが教室へやって来た。 気付いた風間は手を振ろうと絵筆を置くと、ポケットにあるスマートフォンが振動した。 何度も振動する事から電話であると気付いた風間は、今話せないと佐々木にジェスチャーをしてスマートフォンの画面を見た。 (あ、天王寺さんだ…) 急いで電話に出た。
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