Courante

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『やぁ、忙しい時にすまないね』 「いえ、大丈夫ですよ。どうしたんですか?」 『仕事が長引いてしまって、帰りが遅くなりそうなんだ。だから申し訳ないんだが、今日の演奏を別の日に延期してもらってもいいかい?』 「かしこまりました。日取りはどうしますか?」 『今すぐには決められないから、後日改めて連絡するよ。夕食だけど、ご飯は用意してあるが、外食しても構わないからね。その際、レシートは明日に出してくれればいいよ』 「かしこまりました」 『じゃあまた』 「はい、また」 画面をタップして電話を終了した。風間は演奏せずに済んだと安堵したと同時に、これを機にこの先の演奏の依頼がなくなるのでは?と考えた。 文化祭の準備後、風間は佐々木と友人数名とでファミレスに寄って時間を過ごした。気付いたら二十時半になり、明日の文化祭に支障をきたさないために解散した。友人とは駅で別れ、有楽町まで佐々木を送って目白へ帰った。 二十一時過ぎ。天王寺宅へ帰宅するも天王寺は帰宅しておらず、次の日の朝になっても、天王寺は帰宅していなかった。 (おかしい…メールすら来ていない) 風間は天王寺に電話を掛けた。ところが、 『お客様がお掛けになった電話番号は、電波が届かない所にあるか、電源が入っていないため掛かりません。もう一度おか――』 風間は電話を切った。今まで一度も天王寺が帰って来ない日がなかったため、安否が気になり、連絡先のアプリケーションを開いて天王寺の会社のデータを探した。 (いや、待って。もしかしたら会社に缶詰めになっているかもしれない。たかが一日帰って来なかっただけで電話するのもどうだろう…) 風間はアプリケーションを終了させ、朝食を済ませて天王寺宅を出た。 学校に着くまで何度もスマートフォンの画面を確認した。それ故、文化祭なのにも関わらず身が入らず、空いた時間に佐々木と行内を周っていても、佐々木の言葉が耳に入らなかった。 「ちょっとー。風間君聞いてる?」 「え?いや、ごめん…」 「さっきからどうしたの?上の空だぞぉ?」 そう言って佐々木が腕を突っついた。風間は苦笑を浮かべながら「ちょっと心配事があって」と言って濁した。 しかし、ここは女子。佐々木は気になり、風間の手を引いて歩き出した。 「どこ行くんだ?」 「階段だよ」 人気の居ない階段に着き、佐々木は座った。そして風間を見て隣に座るようにと誘導した。
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