Courante

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夜。風間がチェロの練習をしている時、部屋のドアを叩く音が聞こえ、手を止めた。ドアを開けるとスーツを着崩した状態の天王寺が立っていた。 「やぁ、ただいま」 「はぁ…天王寺さん心配しましたよ」 「うん。ごめん」 天王寺は「じゃ、また後で」と言って寝室へ戻った。風間はその後ろ姿を見送った後、自室のドアを閉めてソファーへダイブした。 「ごめん。だけかよ」 風間はチェロを放ったらかしにして不貞寝した。 それから暫く経ち、風間は仄かに漂うアロマの香りで目を覚ました。 視界に人影がチラつき、目を擦って焦点を合わせた。 「って、天王寺さん!?」 天王寺が近くの椅子に座っており、目を覚ました風間に手を振った。 「おはよう」 「おはよう…?ーーえ!今何時ですか!?」 風間は慌てて起き上がり、時間を確認しようと辺りを見回した。それを見て天王寺は笑いを堪えられず思わず吹き出した。 「ははははは!!二十時過ぎだよ!ちなみに日にちは変わってない」 「へ…?マジで?はー…焦ったぁ…」 風間は安堵の溜息を吐いた。 「ところで、天王寺さんがここに居るのは珍しいですね。資料探しですか?」 「いや、君に用があって来た。さっき、また後でって言ったでしょう?」 「あー…言ってましたね」 「君からの不在着信とメールが何件かあったよ」 風間は赤面になり、恥ずかさの故に天王寺から目を逸らした。天王寺はクスクスと笑い、自身のスマートフォンを出して画面をタップしたりスライドさせたりした。 「今まで一人だったから気付かなかったけど、心配を掛けてしまようだね。すまなかった」 「無事でなによりです」 「うん」 その時ポケットの中にあったスマートフォンが振動した。スマートフォンを取り出して画面を見ると、メールの通知が表示されていた。メールを開くと、差出人が目の前にいる天王寺からだった。 ―――――――――――――― 差出人:天王寺さん> 宛先:風間響夜> 件名なし 24.Oktober 2015 20:17 会社で久々に完徹をしました。 連絡をしなかったことをすまなく思っています。 次は、メールか電話をしますので、どうぞ許して下さい。 ―――――――――――――― 風間は吹き出した。 「天王寺さん、目の前にいるんですから言って下さいよ」 「うん。ごめん」 結局天王寺は言わなかった。
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