Courante

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それから遅めの夕食を摂り、明日の文化祭について話した。 「え、明日来ること出来るんですか?」 「行くに決まってるじゃないか」 天王寺が文化祭に来ると分かり嬉しく思う反面、それまで忘れていた最後の演奏の事が風間の思いを占めた。 最初はただの変人だと思っていたが、共に朝と夜を過ごして大分情が湧き、今や一緒にいるのが当たり前だと思っていた。 それくらい過ごしやすくて楽しい有意義な日々だった。 だから演奏者として最後になると思うと、天王寺と会えない日々になると思うと、心が空虚感に蝕まれてしまう。 部屋に戻っても、最後に弾く曲を決められなかった。 次の日の昼。天王寺は風間と共に品川駅から緑柱高校まで行く約束をしていた。品川駅を降りて階段を上った。 「あれ、どこの改札口だろう」 天王寺はスマートフォンを取り出して風間にメールをした。 「おい響夜、何ソワソワしてんだよ。ま、当たり前だよな。他校の女子が来てるもんな」 「いや、別にソワソワしてないし、俺彼女いるから」 「惚気か?惚気ですか?ま、みんなのアイドル佐々木さんと付き合ってんですもんねー」 「ちょっと黙れ」 風間は一緒に呼び込みをするクラスメイトと共に校舎前で立っていた。その時、ポケットに入っているスマートフォンが振動し、風間は直様ポケットから取り出して画面を見た。 「そろそろ交代だよな。俺ちょっと知り合いを迎えに行くから後は頼む」 「女か?」 「言ってろ」 風間は看板を置いて校門を出た。 「中央改札か」 風間からのメールを確認して中央改札を出、西口から外へ出た天王寺は風間が来るまで行きつけカフェのチェーン店に入ってカフェラテを頼んだ。そしてカウンター席に座り、ついで買ったクッキーを頬張りながら風間が来るまで時間を潰した。 (そうだ。延長していた演奏日を決めなきゃ) 天王寺は手帳を取り出してスケジュールを確認した。十月二十八日に赤い印があるのに気付いた。 (この日が良いかもしれない。だけど彼は緊張するかもしれないな…) 手帳をしまってカフェラテを飲んだ。 それから数十分して風間がカフェへ来店した。 「天王寺さん、お待たせしました」 「いえいえ」 天王寺と風間は店を出て緑柱高校へ向かった。道中小物屋のディスプレイを見て素材と言いながら写真を撮ったりして、楽しく歩いた。
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