Prelude

5/8
前へ
/38ページ
次へ
天王寺は丸善の向かいにある画材店を一瞥し、後日画材を買おうと考えながらスクランブル交差点で立ち止まった。 渡ればギターショップ。渡らなくても左手にもギターショップが並んでいる。何処にレコードプレイヤーなど売っているのだろうか。そう考えながら、取り敢えず左手の道を歩き出した。 少し歩くと、ギターショップに挟まれてバイオリンがウィンドウに飾られているのを目撃した。どうやら弦楽器店らしい。 隣のショーケースにはチェロが立てられていた。天王寺は思わず立ち止まり、そのチェロをジッと見つめた。 そして店から無伴奏チェロ組曲が聞こえ、入る予定ではなかったが入店してしまった。 「いらっしゃいませ」 店員が挨拶をし、他の客のバイオリンをメンテナンスする姿が見えた。 周りを見渡すと、店内にはあまり人がいなかった。だがその様子はまるで絵画を鑑賞しているように壁に掛けられているバイオリンを見ていた。 バイオリンもそうだがチェロが見たかった天王寺は、階段の壁にある案内図を見てチェロ売り場へ向かった。 チェロ売り場に着くと、各メーカー毎にチェロが置かれており、試し弾きをする者がいた。 天王寺は気にせず一つ一つのチェロを見ていると、チェロ売り場の筈なのにレコードプレイヤーが幾つも置かれ販売しているスペースを見つけた。 なんとなくレコードプレイヤーを見ていると、DENONと書かれたレコードプレイヤーを見つけた。丁度視聴用レコードが置かれていた為、カートリッジを下げた。 「あ…ワルツ嬰ハ短調作品六十四第二番だ」 一時期好んで聴いていた曲だと分かると、自宅で聴いていた音質と比べやすいと考えながら聴いていた。すると音に気付いた店員が天王寺の元に来て話し掛けた。 「このアナログレコードプレイヤーは、忠実に音を再現出来るんですよ」 「成る程。よし、これにした」 気に入ったら購入は早い。それが天王寺のスタンスである。 早速プレイヤーレコードを買った天王寺は余った時間で丸善に寄り、何冊か本を購入してバイク駐輪場に向かった。 バイクにダンボールを括り付けて乗るのは格好が悪いが、レコードプレイヤーなら話は別で、天王寺は鼻歌を歌いながらバイクを走らせた。 それから戻る事約二十分。地元に着いたのが十四時五十五分。天王寺は行き着けのカフェへ寄り、店頭にバイクを停めた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加