Prelude

6/8
前へ
/38ページ
次へ
「こんにちは天王寺さん」 窓拭きをしていた女性店員が常連である天王寺に挨拶した。 「今日はポニーテールなんですね。可愛らしくて似合ってますよ」 「またまたぁー!天王寺さんったらお上手」 女性店員はお世辞だと思い、笑いながらそう言った。天王寺はレコードプレイヤーが入ったダンボールを抱えて入店し、何時ものカウンター席に荷物を置いてレジへ向かった。 「こんにちは天王寺さん。今日のオススメはこちらのパンケーキですが如何ですか?」 「じゃあそれと何時もので」 「かしこまりました。いつもありがとうございます」 注文を受けた店員がドリンク担当や他店員に聞こえるようにオーダー内容を繰り返した。それがパフォーマンスのようで、何時もこのコールを楽しみにしている。 天王寺は支払いを済ませて受け取りカウンターに向かい、おしぼりとナフキンと水を用意して待った。 「お待たせしました。パンケーキ とカフェラテトールサイズです」 「ありがとう」 「ごゆっくりどうぞ」 天王寺はトレーに乗っているパンケーキを見てワクワクした。思ったよりボリュームのあるパンケーキで、トッピングとソースが溢れていて食欲が増した。 カウンターにトレーを置き、椅子を引いて座る。隣を見ると大きなクマのぬいぐるみが座っている。カフェのマスコットキャラらしい。黒いエプロンを着けて窓の外を見ていた。 天王寺はこのクマが非常にお気に入りで、店員が気を利かして15時前になるとわざわざこの席を予約席にしておくほどだ。 天王寺はニコニコと笑顔でマグカップを手にし、カフェラテを口にした。 「んまい」 カフェラテを飲むならこのお店。しかもこの店舗はバリスタコンテストで賞を受賞しているという有能な店でもあり、どの店員が作っても美味い。 強いて言うならバリスタコンテストで優勝した店員のカフェラテの方が一番だなと思いつつカフェラテを飲んだ。 続いてパンケーキ。フォークとナイフを持ってパンケーキを切り、口に運んだ。 「ふわふわ…」 ペロリと平らげる程の美味さ。と実は噂で聞いていたが、これ程の美味さとだとはと天王寺は感服した。褒め過ぎだろうか? あっという間に完食し、カフェラテを飲みながら窓の外を見た。行き交う人々が見え、携帯片手に何かを書いているサラリーマンや、子供連れの母親、女子高生達が歩いていた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加