Prelude

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(あ、素材) 恐らく駅に向かっているであろう男子高校生三人組が目についた。ただの男子高校生なら興味はない。その中の一人、長身で髪色が他の男子とは違う白人の青年に興味を持った。 男子高校生が通り過ぎた。と思いきや、そのまま天王寺がいるカフェへ入店した。 男子高校生達は空いている席を見渡しているのを天王寺が一瞥すると、長身の白人と目があった。 『あそこ空いてるよ』と隣の青年が指を指したのは奥のテーブル席、天王寺の真後ろにあるテーブル席だった。男子高校生達は荷物を置いてレジへ向かった。 数分してケーキとドリンクを乗せたトレーを持って男子高校生達が戻って来た。天王寺は窓に反射する長身の白人を見、ポケットから小さなクロッキー帳とシャープペンシルを取り出してその白人の青年を描いた。 途中、何時もなら集中している時は誰の会話も聞こえないのだが、この時ばかりは聞こえてしまい筆を止めた。 『外にあったバイクカッコ良くなかった!?』 『マグナだよマグナ!!Vツインエンジンかっこいいよなぁ~!!』 天王寺は途端、そうだろうそうだろう。とニマニマしながら青年達の会話に聞き耳を立てていた。 『あのト音よかったな』 『ベースヤバかった!サムとプルの弾き方がパネェ!神だよ神!!』 『どっか有名な歌手の曲でもベースやってたって言ってたよな!』 『誰だっけ?』 『忘れんなよ!』 ト音。もとい、東京音楽専門学校はバスに乗って四つ目で下車し少し歩いた所にある知名度の高い専門学校である。最初は東音と呼ばれていたが、いつの間にかト音と呼ばれるようになった。 (そうか、体験入学か) 何やらエレキベースの話で盛り上がっていたが、会話をしていたのは白人以外の青年二人。白人はただその会話を聞きながらアイスドリンクを飲んでいた。 『ところで、お前はどうだったんだ?音大の方は』 『うん。なかなか良かったよ。流石有音って感じ』 天王寺の片眉がピクッと動いた。有音は先程電話で話した高校時代の後輩が通っている有栖川音楽大学の略称であり、天王寺の家から歩いて十分の所にある音大だったからだ。 (白人、日本語話せるだけではなく、あの音大を狙ってるのか) 専門学校の体験入学に行った二人は無理にせよ、この白人なら可能性はあるなと考えながらカフェラテを飲み干した。
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