Prelude

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腕時計を見るといつの間にか三十分の時が過ぎていたようで、何時もより長居をしてしまったと思いながらトレーを返却口へ置くと、カウンターに置いていたスマートフォンが震度していた。ディスプレイを見ると会社からの電話だった。 天王寺は慌ててレコードプレイヤーを抱え、外に出て電話に出た。 『社長、どこにいらっしゃるのですか?』 電話越しの相手の言葉は丁寧だが、雰囲気は何処となく怒っているようだった。 「あー…何時もの所」 『まさか十五時三十分から打ち合わせがあるのをお忘れではございませんよね?』 「そんなわけないだろ。今家に向かう準備してるんだから、三分待ってて、じゃ」 電話を切り、抱えていたダンボールをバイクに括り付けてエンジンを掛けた。 「しばかれるだろうな…」 天王寺はそう虚しく呟いてバイクに跨がり、ヘルメットを被ってアクセルグリップを回した。 一方、それを店内で見ていた男子高校生達は、バイクの持ち主が目の前のカウンター席に座っていた人であると分かり、それをネタにして話し出した。 ただ一人、白人の青年を除いて。 アッシュブラウンの髪を持つ白人の青年は、その浅い水色の双眸でバイクに乗って走り去る天王寺の姿を追った。 --------------------
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