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第一章 僕とオトンの奇妙な関係
朝日が差し込むベッドルーム。
三浦恵-みうらけい-(18)は、鳴り続ける目覚まし時計を乱暴に止めるとベッドの横で仁王立ちし深い溜息を吐いた。
自分はすでに登校する支度は済ませ、あとは目の前で布団に包まっている男を起こすだけなのだが、毎朝のことながら、これがとてつもなく体力を消耗する。
低血圧なのかは知らないが、良い大人が10歳下の子供に毎朝起こしてもらっていてなんとも思わないのだろうか。
まぁ、今に始まったことではないが、朝の忙しい時間帯に今から繰り広げられるやり取りを考えると気が重い。
恵は大きく深呼吸すると盛り上がっている布団に向かって大声を上げた。
「いつまで寝とんねんっ?! いい加減起きんかいっ!!」
「…………」
関西弁を生かし、思いっきり巻き舌で怒鳴ってみたものの、怒鳴られた当人は少し身じろぎした程度で少しもダメージがない。
それも仕方ないことだ。
恵がどんなにドスの利いた声を出そうと試みても、舌足らずでは迫力の欠片もない。
恵は眉を八の字に曲げると今度は布団に掴み掛かった。
「早よ起きっ!! 会社遅れるやろ~?! クビになったらどーすんねんっ!!」
布団を剥がそうと思いっきり力を入れて引っ張ってみるも、案の定、布団はピクリとも動かない。
そんな力があるのならさっさと起きればいいものの、当人にその気はまったくないのが悩みどころだ。
「いい加減にさらせよっ!! この”クソ親父”!!」
布団を引っ張り合いながら恵が、そう叫んだ瞬間、布団の中から一本の腕が伸びてきたかと思うと、同時にベッドの中に引きずり込まれる。
「ちょっ?!」
恵が驚いて上半身を起こすと、目の前には気だるそうな表情を浮かべながら自分を見上げる綺麗な顔があった。
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