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三浦佑-みうらたすく-(28)は、まだ開けきらない目で恵を見据えると、不満そうに口を尖らせる。
「……誰が”クソ親父”だ? 佑さんって呼べ。それかお兄ちゃん」
自分の呼び方に対して文句だけはしっかりと述べる佑に顔を引きつらせると、恵は布団を引っぱり剥がした。
「誰が”お兄ちゃん”やねんっ? せいぜい”おっちゃん”がいいとこじゃっ」
母親似の大きな目を見開いて自分を叱る恵の姿に、思わず佑の顔がほころぶ。
どんなに恵が怒っていても、どうしても怖いとは思えなかった。
むしろ頬を膨らませている姿は、そこら辺の女子高校生に退けを取らないくらい可愛いと思う。
相変わらずベッドの上で横になったまま、突然おかしそうに笑い出した佑を、恵は訝し気に見詰めると声を上げた。
「笑い事ちゃうわっ。いい加減起きんと飯抜きやでっ?」
恵の言葉に、佑はベッドの上で頬杖をつくと大きな欠伸をしながら口を開く。
「別にいいもん。コーヒーだけで」
「コーヒーもやらんっ! 僕の言う事聞けんやつには何もやらんっ!」
自分に枕を投げつけ、ベッドから這い上がろうとした恵の腰に、佑は直ぐさま両腕を巻き付ける。
「そんな~。怒るなよ~け~い~」
自分にしがみつく佑を迷惑そうに睨み付けると、腰に巻き付く腕を振りほどいた。
「引っ付くなやっ! うっとおしいっ」
さっさとベッドルームを後にしようとする恵の背中に向かって、佑は不満そうに問いかける。
「……ちょっと”お父さん”に向かって冷たくないか?」
佑の言葉に恵は肩越しに振り返ると眉間に皺を寄せた。
「都合の良いときだけオトンになるなやっ! 佑こそ、毎朝毎朝、同じ事言わせんといてや」
怒っているのだろうが、眉を潜め困った顔をする恵の顔を見る度、本当に恵が傍にいてくれて良かったと実感する。
恵がいてくれなかったら、今頃こんな風に笑ってなどいられなかったから。
最愛の人を永遠に亡くしてしまったあの日からーーーー。
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