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呆れながら自分を見詰める恵の顔が、今は亡き妻の顔と重なる。
「……ほんま……恵がおらんかったら俺、今頃死んどるわな~」
何も考えずに口にした佑の言葉が恵の顔を歪ませた。
「……あほ。縁起でもないこと言うなや……」
気まずそうに俯いてしまった恵に佑はふっと笑みを浮かべる。
「……冗談だってば」
哀しそうに微笑んだ佑に、おずおずと視線を向けると、恵は頬を赤くし声を上げた。
「それとっ! 下手な関西弁使うな!!」
そう吐き捨てて部屋を出て行った恵の姿に深い溜息を吐くと、佑は欠伸をしながら寝癖だらけの髪を乱暴に掻きむしった。
「下手って……大分上手くなったと思うけどなぁ……」
ベッドルームのドアを乱暴に閉めると、恵はドアにもたれ掛かり顔をほころばせた。
仮にも父親である佑に厳しく接するのは、彼が頼りないせいもあるが、なによりこれが恵の愛情表現だった。
会社では後輩から慕われ頼られる存在でも、家で主導権を握っているのは恵だ。
佑の身の回りの世話は恵が何から何までしてやらなければ、きっと1週間でこの部屋はゴミ屋敷と化すだろう。
こんな奇妙な共同生活を送るようになったのは、恵の母親が亡くなって1ヶ月を過ぎたあたりからだったーーーー。
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