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私は慌てて気持ちを仕事モードに切り替え、チェアから立ち上がって体ごと男性に向き直った。
「こんばんは」
挨拶をすると、男性は無言で数冊の本と図書カードを差し出した。
一瞬、その指に目を奪われる。
男の人なのに、しなやかで、細くて長くて、綺麗な指。
しかもスイーツとかフルーツとか、女子が借りるような本ばっかり。
………ちょっと、珍しいな。
「返却日は、10月8日になります」
本を揃えて差し出すと、男性は軽く会釈しながらそれを受け取った。
だが何故か本を抱えたまま、その場を動こうとしない。
それどころか、まるで探るようにじっと私の顔を見つめてくる。
訝しく思い無意識に身を引いた、その瞬間。
「────久しぶり。真白さん」
男性の唇が、ゆっくりと動いた。
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