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「………………」
突然知らない人に名前を口にされ、私は思わず凍り付く。
驚きすぎて、すぐには声も出なかった。
──── 久しぶり?
久しぶりってことは、前にも会ったことがあるってこと?
同級生だろうか、と一瞬思ったけど、下の名前で呼ばれるような親しい男子なんていなかったし……。
もちろん今だって、そんな男性はいない。
私の激しい困惑と動揺が伝わったのか、男性はおもむろにかけていたウェリントン眼鏡を取った。
前髪を掻き上げながら、真っ直ぐに私の目を見据える。
「覚えてない?」
顕になった男性の顔を見て、私はゆっくりと目を見開いた。
スッと切れ上がった一重の目。
深く澄みすぎて、何を映しているのかわからない瞳。
遥か遠い昔の記憶が急激に揺さぶられて、私は思わずその場で半歩後ずさってしまった。
ガツッとチェアに足がぶつかり、その痛みでようやく我に返る。
「忍……くん?」
震える声で問うと。
彼は無言で、頷いた。
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