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その後しばらく、私達はじっとお互いの顔に見入っていた。
思いがけない再会に、私はただ言葉もなく立ち尽くしていたのだけど、彼は特に驚いた様子もなく静かな瞳で私の顔を見つめていた。
少し青みがかった深い瞳を見て、心の奥底にしまいこんでいた記憶が揺り動かされる。
───ああ、そうだ。
昔からこの人は、感情を表に出さない人だった……。
「九石さん?」
その時、返却カウンターの方から様子を窺うような声がかけられた。
私はハッと背後を振り返る。
ハラちゃんが、少し心配げな様子でこちらを見ていた。
「何か問題でもありました?」
ただならぬ様子に気付いたのか、ハラちゃんは注意深くそう聞いてきた。
ごく稀に訳のわからない理由で絡んでくる利用客もいるので、どうやらその類だと思ったらしい。
私は慌てて両手を振り、大丈夫、と返事をしようとした。
口を開きかけたその時、まるでそれを遮るように彼が先に声を出した。
「──── 待ってる」
驚いて、私は彼へと視線を戻す。
でもその時にはもう、彼は出口へ向かって歩き始めていた。
「………………」
私は呆然とその後ろ姿を見送る。
ドクン、ドクン、と、胸の激しい動悸に気付いたその次には。
………右膝の古傷が、ズキズキと疼き出すのを感じていた。
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