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吹き飛んだ魔王は、茂みに頭から突き刺さった。
そして僕の前に降り立つ人影。
誰かはすぐに分かった。
「姫!?」
「王子!」
僕が名前を呼ぶと、ルビーのように煌めく緋色の髪と浅葱色のドレスの裾を翻し、体ごとこちらを向く。
そして抱き着いてきてこう言った。
「すぐに助けに来れなくてごめんなさい。
神を名乗る変な奴に、妙な事を頼まれてしまいまして……
でも! 王子は人が良すぎますの!
あんな得体に知れない変態のこと、簡単に信じちゃいけませんわ」
魔王が吹き飛んだのは、どうやらこの姫の飛び蹴りでみたい……
姫のお転婆と気性の荒さは今年も健在。
「何か言いました?」
「相変わらず姫はパワフルだなぁ、って。
流石は狩猟とカーニバルの国、南の国のお姫様だね」
「ありがとうございます。
日々の鍛錬、欠かしたことありませんもの。
王子を守ると決めた、あの日から」
そんな事を、お陽さまみたいな笑顔で言われてもなぁ……
っていうより、‘私の大事な……人形ですから’とか聞こえた気がしたんだけど?
「…… っぐ、ぬおっとっ、あー痛ぇ」
茂みが揺れたと思ったら、頭に葉っぱやら枝やらをたくさん付けた魔王が、右頬を摩りながらもぞもぞど出てきた。
「痛ぇなぁ…… 何が起きたんだ? 」
「あら。 随分とお早いお目覚めですわね」
僕から離れながら、急に冷たい声音になる姫。
その夜明け前のような瑠璃色の瞳で魔王を見据えながら。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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