第1章

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 小学校にあがる前の事。  お母さんが無駄遣いはダメって言うけど、無駄じゃない時は買うよ。 ねっとーしょー。とか、ぜっこーちょー。とか暑いと怖い事いっぱい。 お日様の下にいたら、水を飲む約束です。一等賞みたいな名前のせい。  だから、ジュースを買うのは良いの。林檎ジュースがいいです。 でも、ジュース買う機械の、お金入れる所に手が届かない。  どうしよう。  知らない人に声かけられたら注意。って言われてるから、 知らない大人にお願いしたら、用心されちゃうと思う。 もしかしたら、お巡りさんに逮捕されるかも。  どうしよう。  お財布からお金を出して、思い切り背を伸ばして 目一杯、手も伸ばして。そんでもって、届かないです。 チャリン。あ、落っことしちゃった。  急いで拾おうとしたけど、ジュース機械の下にコロコロ。 入っちゃった。道にへばりついて隙間を覗きたいけど 道が凄い熱いの。ねっとーしょーになっちゃう。 でも、すぐに慣れてきたから。よく覗いてみて考えた。  落っこちたのは100円だから、銀色のを探す。 でも、よーく見ると銀色のお金みたいなのって 他にも落ちてるみたい。他に落とした人が諦めたのかな。  嫌だな。諦めたくないな。棒とかあれば全部取れるかな。 他はお巡りさんに持っていけば、自分のは返してくれるはず。  棒切れは無いし、手を伸ばしても少ししか狭くて入らないし 中は日陰で暗いのに、とっても熱い。  よーく見ると、銀色以外にも色々落ちてる。 あれは10円。あれは蝉の抜け殻。あれはペットボトルのフタ。  あれは……。あれ、あれは何だろう?動いた気がする。 虫かな。違う。まばたきしたんだ。あれ、目だ。こっち見てる。 猫が入れるような隙間じゃないけど。中は凄く熱いのに。でも。 二つの大きさが猫くらいある目。パチパチまばたきして見てる。  どうしよう。  両方でまばたきしながら、見つめ合ってる。一応訊いてみた。 「あの、ネコさんですか?」  すると、その目はまばたきをやめて、ジーっとこっちを見てから。 「違うよ。」って言った。男の人でも女の人でもない声。  ちょっと考えてから、続けて訊いてみた。 「そこに住んでるんですか?」  さっきみたいに、まばたきはしないままで、同じように言った。 「ああ【棲んでる】んだねぇ。」  そっかあ。だから一応、謝ったの。
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