第1章

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起こしたら可哀想なのです。お婆さんも頑張って一休みですから。  お店の外に自動販売機があるので、こっちでいいの。  フウコが自動販売機を見つめている。これ……なんだっけ。 何かトコは、この自動販売機と大切な約束をした気がします。 公園までの一本道、暑い日差しがトコとフウコを照らしています。 眩しくて、ジュースがよく見えないのです。 「何か用かい?」  急にどこからか声がしました。眩しくて判らなかったから、 パン屋のお爺さんかお婆さんかと思いました。 「光が眩しくて見えないんです。フウコ炭酸だめだから。」 「ああ、これならどうかね?」  陽射しの金色を遮るように、影が包んで自動販売機が見えました。 トコは林檎ジュースを買って、影の方にお礼をしようと。振り向いて。 「どうも、ありがとうございま」  フウコも、振り向いて。トコたちは身動きできなくなりました。 毛むくじゃらの大きな、自動販売機より大きな一本足のオバケが、 猫のような二つの目をパチパチさせて立って言いました。 「ヒッヒッヒ。ワシが怖いか?」  前に会った事がある。このオバケさんの目だけ憶えてる。 大昔の昔に、助けてもらった気がする。 「ヒッヒッヒ。怖いか?どうなのじゃ?」  え?いえ、怖くは無いんですけど、前に会った事ありますよね。 「怖くないのか。それは残念じゃ。お嬢さんは約束も破らん。 そっちのチビちゃんは、何と言う名前じゃ。」  あ!あの……。風の子でフウコです。 「ほう。では、またのう。」  あっという間でした。そのオバケさんは熱い風をブワーと 吹いてからスイーッと飛んで行って、消えてしまいました。 タコ公園にもいなかったし。自動販売機の下にも居なかった。  でも、たしかあのオバケは。お目目さん……。 忘れてた。何故かごめんなさい。オバケは忘れちゃいけない。  忘れてしまったら、人間はズルい子になっていく気がする。 でも、忘れてた。【良い子】なんかじゃない気が。グス。  リン姉の事も悪く言えない。お母さんが宿題を忘れた子供のとき お母さんもオバケを忘れたりしたかもしれない。誰かがそうだとか。 そういうのじゃなくて。  トコは忘れていました。ごめんなさい。お目目さん。  その日の夜、お母さんが晩ご飯を作ってくれてるので、リン姉の 宿題はカコ姉が手伝ってました。リン姉はカコ姉コワイから嫌だー。
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