第1章

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「ビシバシ厳しくやるから、終らなかったら晩ご飯抜きだからね。」  部屋に連れて行かれるリン姉を見ながら、お母さんが笑いました。 「華子の時に、お母さんが同じセリフ言った覚えがあるなぁ。」 「ね、ねぇ!お母さんは、オバケに会ったことってある?」 「え?オバケ?遊園地とかじゃなくて?どうかなあ?覚えてないよ。」  野球に夢中だったお父さんが、急に振り返って言いました。 「お父さんはあるよ。よく覚えているさ。」 「ど、どんなオバケ?!」 「それがねえ。意地悪じゃないんだけど言えないんだ。 オバケとの約束でね、どんなオバケで、どんな風にあったか。 それだけはずっと内緒なんだよ。そうしないとお父さんも お父さんの大事な、燈子たちも皆、食べられちゃうんだ。」 「そう……なんだ。オバケは悪い子なの?」 「これは、難しいなぁ。燈子はお爺ちゃんの事、知らないね。」 「え、知ってるよ。今年も田舎に遊びいったもん。」 「ああ、そっか。えっとねいつも行く方のジージとバーバは、 お母さんの田舎なんだ。お父さんにも田舎があったんだけど お爺ちゃんもお婆ちゃんも、天国に行っちゃったんで、 それでお盆のときに、キュウリに乗って帰って来てたんだよ。」 「リン姉の扇風機のお爺ちゃん?」 「そうそう!よく覚えていたね。」 ――トコは記憶力がいい。いいはずだったのに。 「そんでね、お父さんの田舎は裏山に、小さな神社があってね。 お爺ちゃんは、毎朝掃除してたんだ。稲荷様だったと思うけど。」 「イナリサマ?」 「えっと、狐さまが祠のとこに座っている神社。赤い鳥居の。 この辺にもよくあるだろう?」 「稲荷寿司様だ。」 「まぁ、そうかな。でも、そっちは神様なんだね。 お父さんは、神社まで昇る長い階段じゃなくって、 山の裏側から、グルっと周って昇ろうとした事があるんだ。」 「なんで?」 「友達同士だったのかな、男の子ばっかりでね。 木の根っこ、ツタを掴みながら昇っていったんだ。 でもね、木の根っこが外に出てるって事は、それだけ 崩れやすかったんだね。お父さんは最後の順番でね。 急に雨が降ってきたんだ。」 「それでどうなったの?」 「おーいって下から叫んだんだけど、皆、雨だからどうやら 帰っちゃったみたいなんだ。かくれんぼでもよくある事でね。」 「ひどい!」 「まぁまぁ。皆も雨の中、お父さんが昇ってくるって思わないよ。
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