第1章

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だけど、その時お父さんは帰っちゃいけない気がしたんだ。 神様の後ろへ周っておきながら、お詫びもしないで帰るなんて いけないって。お爺ちゃんに怒られるって思ったのかもしれない。」 「でも、雨でグチャグチャじゃ危ないよお。」 「トコは流石だ。お父さんもそう考えた。で思い出したんだ。」 「何を?」  思い出した? 「お爺ちゃんが毎朝掃除する用具入れは、この裏側にあったんだよ。 そこに隠れて、雨が止むのを待った。夏の雨だから凄い土砂降りでも すぐにやむっておもって、待っていたんだ。そのときだ。」 「そのとき?!」  横で聞いてたお母さんとトコが同時に聞いた。 お父さんが、プッと笑って。それから言った。 「だからさ。」 「だから?」 「そう!だから、言えないのさ。お父さんが何に出会って どうして助かったのか。言っちゃいけないんだ。 そういう【約束】になってるからね。でも何かが お父さんが見た事は、口止めされなかったんだ。 誰もどうせ信じないからって。そのときオバケがお参りに来る人も ほとんど居なくなっていた神社の方を見上げてね。 忘れてしまえば、消えてなくなるだけだからって。 それがとても印象的だったな。」 「それで、どうなったの?」 「うん。ごめんね。どうやって助かったのか。それは約束だから 教えてあげられないんだ。でもね、お爺ちゃんにメチャメチャ お尻を叩かれたのは覚えているよ。」 「もし、もしも、トコがオバケにあったらどうしたらいい?」 「忘れないようにしておくと、いいかもしれないね。判らないけど。 ああ、そうだ、ちょっと一杯呑んで帰宅が遅くなると、この家にも鬼が 出るらしいよ。それなら話してあげら・れ・る・な・あ。」 「ほへ?」  お母さん、後ろに立ってる。 お父さんが猫の毛が逆立ってるみたいになってる。 今日のビールは無しなんだろうな。可哀想。トコのせいじゃないもん。  でも、気になるよ。あのお目目さんは、トコを助けてくれたの? それとも驚かしたかったの?もしかしたら、寂しかったのかな……。  夏休み最後の日。だっていうのに、朝から物凄い大雨だった。 今日は当然、外に出ちゃダメって。言われた。出たくないもん。 こんな大雨の中、夏だからってお外で遊ぶ子いないもん。 そんな子、お馬鹿だもん。トコは雨合羽に傘とバスタオルを抱えて、 お母さんに内緒で、家を出て行った。
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