第1章

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 風子がいない。あの子、まさかお目目さんに会いに行ったんじゃ。 本当はトコは悪い子なんです。風の子のフウコにはトコを守ってくれる、 強い強い風の力を持ってます。トコは燈の子。火は風で大きくなります。  お目目さんと最初に会った時、まだトコはフウコに出会っていません。 フウコが来たのは今月の初めです。でも、いつもフウコはトコと一緒。 もしも、この前の時、あのお目目オバケさんの熱い風から、トコを 助けてくれようとしていたのなら。こんな冷たい嵐の風なら。  フウコのバカ!  橋の真ん中で、大人の人たちに風子が網で捕まってる。 「その子、ウチの子です!トコの妹なんです!」  傘から片手を離した瞬間、傘は全部ひっくり返って、お茶碗みたいに。 トコの雨合羽に嵐が吹き込んで。  燈子は飛びました。 一瞬、風子が網の中で、手を伸ばして。トコをわたしを掴もうとして。 届くわけがなくって。お父さんもきっと、こんな気持ちだったんだ。  トコは絶対にやってはいけない事を、やってしまいました。 河に落ちたのです。水、水、水、泥水、水、砂利、木の枝、水。 痛いけど、それより夏なのに。泳ぐの得意なのに。プールと違う。  なんでこんなに寒いの。  助けて。 「何か用かい?」  お目目さんが、河の上に浮かんでいます。 川岸には救急車やパトカーが沢山、ピカピカしています。 誰にも、お目目さんは見えないらしくて。 トコにだけ、見えていて。思わず、思わず、トコは叫びました。 「お目目さん!風子を助けて!」  お目目さんは急に笑い出しました。そして、水の上にトンと立ちました。 片手に風子を乗せています。風子が怖がっても怒っていないんです。 「ワシの名を教えよう。スイーッと出てきて、トンと立つ。スイトンじゃ。」 「スイトンさん?」 「そうじゃ。ワシはな人の考えを読む力がある。そういうオバケじゃ。 だが、何でも読もうとは思わん。人なんぞ読むもんじゃない。 段々と何百年の間に、嫌いになってしもうた。だが仔猫にお嬢さん。」 「わたしは燈子です。その子は風子です。」 「うむ。良い自己紹介だ。やはり悪い子ではなかったようじゃのお。」 「……悪い子です。嵐なのに一人で河に来たりして。」 「人間の悪さなど、ワシは知らんよ。ただ……。」 「お目目さんと話した事は内緒ですね?!」 「ほうほおう。覚えていてくれたか。嬉しいのお。
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