わがままな未来

3/6
173人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 買い物に出れば、あれこれ横から口を挟んで「これは趣味が悪い」だの「おれの言うこときいてこれにしとけ」だの親よりも口うるさい。  ビデオを借りに行けば、「これが観たい」と勝手にカゴに放り込んで、俺が観なかったら「なんで一緒に観ないんだよ」と文句を言う。  腹が減れば『ハラへって死にそう。死んだら陽太のせい』とメッセージを送ってくるし『だから駅前のベーカリーのカレーパン買ってきて』とパシリのようにこき使う。  以前、黙ってコンパに行ったときは、嫌がらせのように帰るまでLINEにスタンプの絨毯爆撃が敷かれていた。それを見たときは怒るを通り越して、呆れて脱力した。  けれど、未来がそのとき、俺が帰るまでずっとひとりでこの部屋で、返事を待ってスタンプを打ち込んでいたのかと思ったら、そのときはちょっと可哀想に思ってしまった。  未来は俺以外には懐かない、いや他人には簡単には懐けない、神経質な子犬みたいな性格をしていた。  今だって、不貞腐れてはいるけれど、頼りげない瞳でこっちをちらちら見上げてきている。それを眺めていたら、しょうがないか、と言う気になってしまった。 「……わかったよ。コンパには行かないから」 「ホント?」  飛びあがる勢いで返事をする。ぴょんと跳ねて、上体を起こしてきた。  俺は上着を脱いで、未来の横に腰をおろした。手にしていたスマホで幹事に『悪い。今日は行けなくなった。ドタキャンでごめん』とメッセージを送る。覗き込むようにして、それを確認した未来は、自分もスマホを取り出した。 「だったらさ、パズドラやろーぜ、陽太。おれ、このまえ新しいモンスター手に入れたんだ」  さっきとは打って変わって、急に笑顔になった未来が身を寄せてくる。 「俺もこのまえガチャでレアゲットした。じゃあ、今日は未来とパズドラ三昧するか」  うん、と嬉しそうに頷く顔を見ていたら、コンパには行かなくてよかったかなという気になった。傍にさえいれば、未来は機嫌がいい。素直じゃないし口も悪いけど、こんな笑い顔を見せるときだけは、男だけどかわいいなと思えてしまう。  ふたりで互いのスマホを見せ合って、プレイしようかとしたところに、俺の方の通話機能が呼び出しをかけてきた。見れば幹事のクラスメイトからだ。 「はい」  すぐに出ると、相手は泣きそうな声をあげた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!