第1章

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 そもそも、こいつは一人称が「あたくち」である。 ちゃんと喋れ!そのくせやたら態度がでかい。 いまさっきも、柔らかな陽射しに包まれまどろんでいた俺を ディアスプロ王女が、お茶目に突っついた。 不意を突かれたとはいえ思わず、「ブギュ!」と言ってしまった。 だが、王女様はそれを愛らしいと、お褒めになり……。 「バッカじゃねーの?」  真後ろでバルドが何か言いやがった。カチンと来た。目を逸らす。 だが王女様は大喜びであらせられる。というか姫様は夜の演奏まで ヒマなのだ。少しは勉学に励んで頂きたいのだが。  王女様が言うには「トリック、あなた最近運動不足なのでは?」 これは、姫様といえど余りのお言葉。バルドが「プッ」とか言う。 そこで久々に猫じゃらしダンシングを披露する。  まるでオリンピック選手の如き華麗な動き。新体操で金メダルは 確実である。ただ、追い回すだけではない。その都度に決めポーズ。 常に高得点を狙う様は、野性のハンターの気持ちを忘れない。  で、ノって来てリズミカルになってきた頃に、王女様が飽きる。 お茶を飲みにいく。実は結構、王女様は酷いのだ。 しかも、バルドにも猫じゃらしを振ってやる。要らん!不要である! 俺が飛び出すと、隣室に追い出される。 「いまはバルドの時間。」  だがバルドは物凄く王女様への礼儀が深いのか、単に臆病なのか。 なかな猫じゃらされない。遂に勇気を振り絞って飛び掛るが、 王女様が飽きてしまう。「酷いでち!」という声が聞こえる。  ちなみにメイド達がお茶を運んできても、俺は堂々したものだが バルドはあらゆる隙間に隠れて、小一時間はまず出てこない。 それどころか、国王陛下、王妃様との夕食の後に、 王女様が戻ってきても、ドアの音だけで隠れてしまう。 もちろん、小一時間は出てこない。足音くらい覚えろバカ猫。  ある日の事である。俺は許可されないのだが、バルドだけ 王女様の浴室へ同席した事があるらしい。その際にバスタブの栓を 引っこ抜いて、バルドが逃げた。バルドの言い分では王女様を 洪水からお救いしたというのだが、バスタオル一枚で飛び出し 走り回る王女様を見た時は、さすがに焦ったものだ。  バルドは魔法を動物本能で引き出す為、かなり人間の作法に疎い。 先日も、国王陛下の夕食の座に勝手にあがりこんだ事がある。 その都度、怒られるのが黒猫のトリック猫爵なのだ。
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