第1章

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終わりかけはいつだって辛いけど、今回は特にそう。 ポケットに入れた手の中、仕事道具のレザーをそっと触る。 すいっとその刃を横に引いたら。 細い一本の線が引かれるだろう。 薄い紅色の線からは、ぷつりぷつりと紅色の球が浮かんで。 だんだんと大きくなってやがて流れるだろう。 それもいい。 流れる液体を見守るのもいいけど、紅色の球をなめとるのも、楽しいかもしれない。 でも、ちょっとばかり今はそういう気分じゃない。 どちらかというと思いっきり体当たりでもして、突き立てた刃物をグイグイとねじ込んだ後、思いっきり抜いてしまいたい気分。 時折、俺の愛しい人に連れられてくる、彼の最愛の人はどんな風になるだろう。 泣くかな。 取り乱すかな。 倒れこむだろうか。 その時に、俺の最愛のあの人は、どんな様子を見せるんだろう。 でも。 と、改めて自分の手元にある道具を思う。 俺の手持ちの道具は、突き刺すようにはできていない。 どちらかというと、薄く傷をつけるのに向いてる。 だったら、たくさんたくさんの切り傷をつけてみようか。 大事に大事にされてる、彼の最愛の人に、紅の線で絵を描くように。 最初から知っていた。 俺の大好きなあの人は、誰のものにもならない人。 自由なのが似合う人。
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