第1章

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俺が、美容室の客だったあの人に、思い切って声をかけた時にも 「一番はやれねえよ?」 そう言い切ったくらいに、最初から誰かのものだった。 結婚しているのは知っていたから、一番はオクサンだと思ってた。 だからその誰かが、血のつながった甥だってのは予想外。 店へ紹介してやるって言って、甥っ子を連れてきたときは、わが目を疑った。 見たこともないくらいの甘い視線。 やわらかい笑顔。 俺では引き出せない顔を引き出してくれるし、そのおすそ分けもしてくれてるわけだから、甥っ子の存在は別にいい。 どっちかっていうと見せてくれてありがとうって感じ。 「担当します、由企です」 そういった時の、甥っ子の微妙な顔を覚えている。 あの人のどや顔も。 あの人が甥っ子を『ゆき』と呼んでいるっていうのを知ったのは、もう少したってからだけど。 あの人が甥っ子をかわいがってるのはいい。 あの人に俺以外に好きな人がいるのもいい。 でもさ。 少し欲張ってもいいかなって思う。 あの人のいろんな顔が見たい。 存在は共有しなくちゃいけなくても、見せてもらえる表情くらい、特別でもいいと思わない? 特別を欲しがっても、いいと思わない?
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