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俺が、美容室の客だったあの人に、思い切って声をかけた時にも
「一番はやれねえよ?」
そう言い切ったくらいに、最初から誰かのものだった。
結婚しているのは知っていたから、一番はオクサンだと思ってた。
だからその誰かが、血のつながった甥だってのは予想外。
店へ紹介してやるって言って、甥っ子を連れてきたときは、わが目を疑った。
見たこともないくらいの甘い視線。
やわらかい笑顔。
俺では引き出せない顔を引き出してくれるし、そのおすそ分けもしてくれてるわけだから、甥っ子の存在は別にいい。
どっちかっていうと見せてくれてありがとうって感じ。
「担当します、由企です」
そういった時の、甥っ子の微妙な顔を覚えている。
あの人のどや顔も。
あの人が甥っ子を『ゆき』と呼んでいるっていうのを知ったのは、もう少したってからだけど。
あの人が甥っ子をかわいがってるのはいい。
あの人に俺以外に好きな人がいるのもいい。
でもさ。
少し欲張ってもいいかなって思う。
あの人のいろんな顔が見たい。
存在は共有しなくちゃいけなくても、見せてもらえる表情くらい、特別でもいいと思わない?
特別を欲しがっても、いいと思わない?
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