第1章

4/5
前へ
/5ページ
次へ
店外で待ち合わせするのは、久しぶり。 あの人は忙しい人だから。 指定されるのはいつも有名待ち合わせスポットの、その中でも人気の少ないところ。 待ち合わせはしやすいけど、人気が多いのは苦手だと…そう言ってたけど、多分、苦手なのはあの人じゃなくて、連れてくる甥っ子の方。 今日は甥っ子連れてくるのかな。 時々待ち合わせに連れて来るんだよね。 食事だけ一緒にして、そのあとは俺との時間になる。 今日連れてきたら、試してみようか。 あの人が、どんな顔をするか。 そんなことを思っていたら、来たのは甥っ子一人だった。 待ち合わせには来るらしい。 そうか。 今日もいつもみたいに食事だけして、そのあと俺と過ごすつもりなんだ。 でも、この子が一人ならちょうどいい。 彼は伝言を告げた後、俺なんていないかのように日陰に立っている。 何処を見ているのかわからない顔で、手持無沙汰に立つ彼の二の腕に、俺はレザーで線を引いた。 「え?」 思った通りに一直線に赤い線が残る。 泣いてわめいて暴れるかと思ったのに、彼は不思議そうな顔で、俺と腕の傷を見比べる。 線はキレイに引けたのに、面白くない。 もういちど、さっきの傷と平行になるように、線を引く。 「痛いんですけど?」 「キレイだと思わない?」 同時に発せられたのは、お互い勝手な疑問形。 ぽつり、ぽつり、と彼の腕から血が落ちる。 ああ、キレイだな。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加