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朋美も殊勝な顔で川の方を見ながら呟いた。僕らはきっと同じ事を考えている。
最初に山路くんの異変に気が付いたのは公平だった。夏が近付き、濃紺のブレザーから白いシャツでの登校が許可された頃だ。
梅雨明けで夏の日射しが照りつけ始め、殆どの生徒がブレザーを着なくなったけれど山路くんは汗をかきながらブレザーの侭だった。
『山ちゃん。なんでそんな恰好してんだよ』
『うんそうだね。暑いよね』
山路くんを“山ちゃん”と呼ぶ公平がそんな事を言っても彼は相変わらず笑っているだけだった。
放課後の教室だった。他には数人の生徒だけが居たと思う。只のイタズラで公平が山路くんのブレザーの背に手をかけ引っ張る。
ウチワを手にしていたから、背中を扇ごうとしただけだ。
『やっ…やめてよ公平くん』
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