序章

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「後悔しますよ?」 そっちから誘ったくせに、笹本は少し迷っているようだった。 「なんで?」 なんだか、面白い。 「聞かないんですか?」 「…なにを?」 なぜおれを誘ったのか? 気になるような、どうでもいいような。 おれは、自分の頬に当てられている笹本の手をつかむ。 躊躇するのが焦らされているようで、「笹本のしたいことしよう」と告げていた。 言っておきながら、これからどうなるのか想像もつかない。 そもそも、この時点では、そんなたいへんなことになるとはおもってもいない。 ただ、笹本が向き合ってくれていることが、くすぐったくも嬉しかった。 無知とは、無敵だ。 キスをする直前、触れるか触れないかの唇が、「…やまうちせんせぇ」そう動いた気がした。 どくん、と心臓がはねる。 過去が差し出されたようで、この状況の不自然さに戸惑ってしまう。 自分の意思でもあることを潔く認めればいいのに、つい、言い訳が頭をよぎる。 …誘ったのは、そっちから。 だから、仕方ない。 それからは、執拗に、ゆっくり、触られて、舐められて、甘噛みされて、 「んん、笹本、ちょ、」 先ほどまでの余裕がなくなっていく。 「…名前で、呼んで」 甘い声に、身体の芯が震える。 「なまえ…」 「ぼく…ユキナリって、いいます」 知ってる。 「ユキ…」そんな物欲しそうな眼で見るなよ。 「あ…まだ…」 もお、限界ですが! 弛緩からの、 「ちから、ぬいてて」 緊張。 「っはあ、は」 ひとの脳はだまされやすい。 違和感よりも快感が勝る。 すげえな、こんなこともできるんだ…
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