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二十代後半になり残業が増えた。
会社が軌道に乗るまでは、と社長自らが会社に泊まり込んでいた。
進が大手の食料品メーカーからの転職を決めたのは、この会社の伸びしろを感じたからだ。
ある日、眠気覚ましにコーヒーも効かなくなったので抹茶を点てた。
深夜のオフィスの給湯室で立ったまま。
無作法極まりないが、一連の動作を体が覚えていた。
脳の一画が洗われるような。
鼻腔に広がる深い香り。
そうだ、社長にも一服どうだろうか。
社長室をノックすると、
物がぶつかるような音と、くぐもった声。
まさか、社長の身に何か!?
扉を開けた進は絶句した。
「社長、それは……」
冬可社長が足首に紐のようなものを絡ませて、ワイシャツを羽織っていた。
「ち、違うんだ。これは。
普段から履いているわけではなくて、試しに、」
「履こうとしたんですか、脱ごうとしたんですか」
「脱ごう、と」
「まあ、社長の重責を個人的な趣味で晴らすのはいい事だと思います。
女性ものの下着ですか………」
「違うんだ。これはこのように肩に」
社長が立ち上がった。
きゅっと搾り上げられた股間。食い込む肩紐。
「これは……何という厳しく、無駄の無いフォルム……!!」
「そうか、わかってくれたか。これを身につけると商談が上手くいくので、シースルーのを普段はつけているんだ。
もし、良かったら」
社長が取り出したのは小さな包み。
それは濃紺色の
「未使用だ」
握手の中に収まるほどのソレが、進の人生を変えた。
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