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◆
「お前がマンキニで仕事をするようになって、もう七年か」
「八年です、社長」
進は社長の片腕になっていた。
商談を兼ねたランチの帰りなのでスーツを着用している。
「あちらの美人秘書がずっとお前のこと見ていたな」
「そうですか、あいにく興味がないもんで。」
車に乗った途端、ネクタイを外す。
運転手が慌てて止める。
「ちょ、我道さん、この前みたいにここで脱がないで下さいよ」
「ボタンくらい良いだろう」
「たまには、うちの女性社員にもスーツ姿を堪能させてやれ」
進がスーツ姿でいると女性社員が色めき立つ。
脱ぐと、散っていく。
「私はもう、身を飾ることに飽きてるんです。締めつけは1箇所で結構。まあクールビズまではネクタイもしますが」
「お前クールビズ関係ないだろ」
「失礼な。素材を変えてます」
社に戻るとエレベーターの中でシャツを脱ぐ。
そしてもう一度ネクタイを締める。
そうしながら先ほどの資料に目を通している。
「俺がお前を頼り過ぎて、婚期や趣味やプライベートを奪ったようで申し訳ないな」
社長のつぶやきを背中で受ける。
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